問題社員が退職するにあたって、退職金を支払わねばならないのか!?といった経営者様からのご相談をよく受けます。ここでは、3つのケースに分けて考えます。

(1)一方的な意思表示による退職
会社の承諾を得ず、無断で一方的に退職した場合については、以下の2つの裁判例があります

【退職金不支給が認められなかった判例】
栗山製麦事件 昭和44.9.26岡山地裁玉島支部
「会社の都合も考えずにやめるときは、仕事の支障を来たすことになるからであり、これを有効と認めることは、即ち退職金をもって労働契約の債務不履行について損害賠償に充てることに帰着し、これは労働基準法第16条、24条に反することを是認することになるので、仮に右定めがあったとしても右の法律に反するものとして無効である。」

これは、円満退職者以外には退職金を支給しないとされている退職金規程が、円満退職者以外の即ち、何かしら会社とトラブルがあって退職した労働者に対して、退職金が実質的に損害賠償金としての意味をもち、労働基準法第16条賠償予定の禁止と第24条全額払いの禁止の規定に反するから無効であるということが主旨である。

【退職金不支給が認めらた判例】
『大宝タクシー事件』(昭和58.4.12大阪高裁)
退職の申し入れを行ったとしても、民法上2週間の勤務義務があり、それを怠ったことにより退職金不支給とすることは有効であるとした判例です。

では、突然辞めて引き継ぎも行わなかったというケースで、その労働者の退職金を不支給にすることは可能でしょうか。

【答え】
退職届け提出後も一定期間は正常に勤務しなかった場合や後任者への引き継ぎ業務をなさなかった場合、あるいは企業からの貸与物の返還義務に応じない場合、退職金を一部又は全部を支給しないなどの規定が、就業規則・賃金規定などで明確にされているという前提があれば、その違反の程度に応じ、退職金の一部又は全部の没収やその他の懲戒処分のあり得ることを警告して引き継ぎ業務を促がすことはできます。では実際に退職金を不支給とすることはできるかどうかですが、これは意見が分かれるようです。上記大宝タクシー事件を参照にして、退職金不支給は可能という意見もたくさん見られます。大宝タクシー事件自体は、引き継ぎの問題での不支給ではなく、退職前2週間は正常勤務する義務を労使協定で締結しているという前提で、その正常な勤務をしなかったことについて、退職金の1部を不支給とすることを認められた。

しかし、その場合でも引き継ぎ自体を強制することはできません。
引継義務に関しては、逆にこれらの規定がない場合で、残った年休でも行使された場合には、労基法39条4項但書の使用者の時季変更権によって処理されることになります。ここでは「使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならない」が、それが「事業の正常な運営を妨げる場合には」会社は他の時季にそれを変更することができること(時季変更権)が明記されています。従業員の年休の時季指定に対して会社がこの時季変更権を行使した場合、時季指定による休暇日の特定という法的効果の発生が阻止され、従業員が指定した日は年休とならず、その日の労働義務は消滅しません。しかし、もし客観的にみて事業の正常な運営を妨げる場合に当たらなければ、使用者はそもそも時季変更権を持たないため、いくら「時季変更権を行使する」と言ってみても、従業員の時季指定の効果を阻止できません。この場合、従業員が会社の意思に反してその日に欠勤しても、年休が成立している以上、会社はこれを無断欠勤として処分することはできず、賃金の支払も必要となります。

【予防策】
以上の解説でも触れた通り、例えば「退職願を就業規則第○条第○項に定める方法(○日前の届出)により提出せず、又は、後任者に対して必要な引き継ぎ業務をしなかったとき、又は、会社からの貸与物を返還しなかった場合は、第○条の退職金から○割を減じ、又は、情状に応じその全額を不支給とするような規定を就業規則や賃金規定に挿入しておく必要があります。

しかし、当該2週間で年次有給休暇を取得した場合はどうなるのかなどの問題がある。
この種のケースでは、不支給が認められにくいという前提で制度を考えていかなければならない。